はじめに
私が去年まで所属していたNHK放送文化研究所(以下、NHK文研)では、5年に1度、「国民生活時間調査」という大規模な調査が行われています。生活時間という名の通り、人々の生活行動とその変化を捉えるのが調査の目的です。睡眠、⾷事、仕事、家事、メディア利⽤などのさまざまな行動を詳細な調査票に記録してもらい、そのデータを分析しています。調査開始は1960年。これだけの歴史ある大規模な調査は国内でも類がなく、調査結果は学術界や教育界を始め、広く活用されています。中でも、メディア利用、特にテレビ視聴については注目されることが多く、6月17日に発表された2025年調査の結果は、これまでにないほど、多くの新聞やネットメディアに取り上げられました。
なぜここまで大きく報じられたのか。それは、今回、全ての年層で、平日のテレビ視聴が減少したという結果が出たからです。図1がそのデータです。「行為者率」という、1日に15分以上、対象行為を行った人の割合で示されています。60代・70代は、メディア接触がインターネット(以下、ネット)上の動画やSNSに分散していく中においても、テレビ視聴者として揺るぎない存在であると考えられていましたが、2020年から2025年の5年間で減少に転じていたのです。60代は94%から84%に、70代が95%から92%に減少していました。
(図1)NHK国民生活時間調査2025年 「年層別 テレビの行為者率(平日)」

出典:NHK文研「国民生活時間調査2025年 生活の変化×メディア利用」より
また、10代後半から40代までを見ると、この5年で2割も減少していることが分かります。5年前、2020年の調査の際に私はNHK文研に所属しており、10代後半と20代の約半数が平日テレビを見ていないという結果にショックを受けたのですが、最新のデータでは、この層でテレビを視聴している人は約3割となってしまいました。
1)「ABEMA Prime」の特集について
この調査結果を受け、テレビ朝日とサイバーエージェントが運営する配信サービス、ABEMAのニュース番組「ABEMA Prime」では、6月24日に「“テレビ離れ“全世代で加速?NHK調査が波紋」という特集が組まれ、そこに出演してきました。

出典:https://www.youtube.com/watch?v=XCHrkzXWxDo&t
特集は生配信で約40分間。ひろゆき氏やパトリック・ハーラン氏をはじめ、テレビとネットを股にかけて幅広く活躍されているレギュラー陣を前に、萎縮せずにきちんと伝えるべきことは伝えたいという思いと、あるSNSのコミュニティーで「私の話は難解だ」と指摘されたことがあり、できるだけわかりやすく伝えたいという思いでスタジオに入りました。民放テレビと異なり、特集の間にCMが入らなかったこと、議論の盛り上がりにあわせて終了時間をフレキシブルに対応していたことから、あまり力むことなく話すことができました。
特集のアーカイブはYouTubeで公開されているほか(サムネイルの出典参照)、議論の概要は特集を記事化したABEMA TIMES「「テレビ離れ」全世代で加速「世代間の共通記憶がなくなる」懸念も ひろゆき氏「高齢者向けばかりではコンテンツとして未来がない」」がありますのでご参照ください。
ここでは、議論の柱となった、「今回の調査結果をどう読み解くか?」「国民的スポーツ放映権の行方」「テレビ放送の役割と今後」「どうする受信料制度」の4点について、私の発言や考えを中心にまとめておきたいと思います。
2)今回の調査結果をどう読み解くか? ~“狭いテレビ”と“広いテレビ”~
大きく報じられた“テレビ離れ”について、私からは2点、補足コメントをしました。1点目は国民生活時間調査についてです。今回、全年層で平日のテレビの行為者率が減少したことは事実ですが、どのくらい見ているか、という「全員平均時間」は、70代に限ってみると、この5年で35分伸びていました(図2)。
(図2)NHK国民生活時間調査 「年層別 メディアの全員平均時間(平日)」

出典:NHK文研「国民生活時間調査2025年 生活の変化×メディア利用」より
実は、日本全体では、ネットをほとんど・全く利用しないという人は2割程度いますし、3割強はネット動画をほとんど・全く利用していません(注1)。ネット上の情報空間における人々や社会の動きがリアルな社会にしみ出していけばいくほど、高齢者を中心としたデジタルデバイドの人たちにとっては、社会とつながる手段としての頼みの綱はテレビである、ということが言えると思います。
また、国民生活時間調査で扱われているテレビ視聴は、あくまで「リアルタイム放送視聴」のみを対象としています。それ以外にも、「録画再生」やネット上の「動画視聴(無料・有料)」でテレビコンテンツを視聴している実態があり、これらの部分が増えてきています。NHK文研で実施されている「全国放送サービス接触動向調査」の結果から、その詳細を知ることができます(図3)。この調査は、国民生活時間調査で用いられている行為者率ではなく、1週間の間に少しでも接触したかどうかを尺度とする「接触者率」が用いられているため、単純に比較することはできませんが、リアルタイム放送視聴、録画再生、ネット動画視聴をあわせたテレビコンテンツへの「トータルリーチ」は2025年でも91.3%あり、最も低い20代でも66%ありました。
(図3)NHK「全国放送サービス接触動向調査(2025)」テレビ番組接触者率

出典: https://www.nhk.or.jp/bunken/d/research/yoron/BUNA0000010760010002/
自宅などに据え置かれたテレビ端末でリアルタイムに放送を視聴するという“狭い概念のテレビ”と、録画再生やネット上の動画視聴も含め、テレビコンテンツを視聴するという“広い概念のテレビ”、双方の変化を見ていく必要があると思います。
3)国民的スポーツ放映権の行方 ~ユニバーサルアクセス権議論の必要性~
今年3月に行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、地上波テレビでは中継されず、Netflixで独占配信されました。これを機に、国民的スポーツを地上波テレビで見ることができなくていいのか、という論点が、国の検討会などでも議論されるようになっています(注2)。番組では、高騰するスポーツの放映権や地上波テレビの役割について議論が行われました。
まず、元プロ野球選手で捕手として2006年のWBCや北京オリンピックに参加し、現在は野球解説者として活躍中の里崎智也氏が、選手にとっては放映権が高騰していった方が、賞金がプラスになるというメリットがあると話しました。自身がWBCに参加した時は優勝した日本チームには賞金が約1億円入り、選手1人は150万円もらったが、今年に優勝したベネズエラのチームには約12億円が入ったと紹介。2022年のFIFAワールドカップで優勝したアルゼンチンのチームには60億円が入ったそうです。
私は、日本ではNetflixの利用者は国民の約15%、DAZNが約2%(注3)であるため、有料配信サービスによる独占が進むと、サービスに未契約の家庭の子どもやデジタルデバイドの高齢者、所得の低い人は視聴したくてもできない状況が生まれてしまうため、その対応については国として考えていかなければならないと述べました。国の政策とはつまり、欧州や韓国などで制度化されている、誰もが無料で視聴できる地上波テレビなどに放映権の取得機会を与え、有料配信の独占契約を防ぐという「ユニバーサルアクセス権」です。
ただ、どの試合をアクセス権の対象とするかについては、かなり議論が必要で、すでに制度が存在する欧州各国でも試行錯誤が続けられています。イギリスでは、対象となる試合について、国民・視聴者が署名を集めて請願する制度も用意されています。また、テレビ離れが進む中、地上波テレビだけが取得機会を得る制度でいいのかという問題もあります。イギリスにおいては、これまでは地上波テレビ(公共サービス放送)にのみ、その機会が提供されてきましたが、最新の法改正では無料配信サービスも対象に加わることになりました。
また、ちょうど生配信が行われた数日前に、韓国のケーブルテレビ、JTBCが2032年までのオリンピックとFIFAワールドカップの放映権を独占的に購入し、そのことで経営破綻したニュースが大きな話題となっていました。韓国のユニバーサルアクセス権の制度では、国民の90%以上が視聴可能な放送手段に取得機会が与えられており、地上波テレビだけでなく、韓国では広く普及しているケーブルテレビもその対象となっています。もちろんこのニュースも、スポーツ放映権の高騰という文脈で捉えることは間違いではないですが、JTBCの場合、一旦、放映権を独占的に購入し、 それを地上波テレビであるKBS、MBC、SBSに再販するというビジネス戦略を描いており、それがうまくいかなかったいうのが直接的な破綻の理由です。韓国では、再販価格のあり方や地上波テレビ局による共同購入の枠組みのあり方などが検討されています。こうした韓国の議論の動向は、民放とNHKで共同購入を行う日本にも参考になるのではないかと思います。
4)テレビ放送の役割と今後 ~ネットファースト&海外展開前提の制作を~
議論の後半は、テレビ放送の役割がテーマとなりました。パックン氏は、「一斉配信されるテレビだからこそ可能だった国民の共有文化や共通する価値観が薄れていくことが心配」、衆議院議員・門ひろ子氏は、「共通の記憶を持たない人々が同世代として社会を構成していく時代において、かつてテレビが担っていたような社会統合を今後どのようなサービスが代替していくのかは、政治の視点からも大きな課題」と発言しました。しかし、ひろゆき氏は「社会的な共通記憶を構築する機能そのものが、すでにテレビという装置ではない」とし、高齢者が多く見るテレビになってしまっている現状について、「テレビ局側もその現状を本気で変えようとする動きが見られない」と一刀両断しました。
私は、「テレビコンテンツの作り方は、すでに地上波放送をファーストとするのではなく、ネットファーストの切り替えが進みつつある。若い人向けのコンテンツをネット向けに作り、それを放送でも流すという、バランスを切り替えながらの対応が始まっている」、「今後の戦略として、最初から国内市場に閉じず、海外展開することを前提としてドラマを作る体制に移行していくことが重要になる。それを怠り、国内だけでパイを奪い合おうとすれば、放送局はどんどん予算削減になってチープなコンテンツを作ってしまい悪循環に陥る。ビジネスモデルを変えていく最中だ」と発言しました。
また、番組では、テレビ局が同じような内容を横並びに放送し、面白くなくなっていることが、結果的にテレビ離れを招いているのではないか、という指摘もありました。そのことについて私は、「本来は放送法というものがあり、偏らずに多様な意見を紹介したり、バラエティーからもうニュースまで、ありとあらゆるものを提供するのが地上派テレビの役割。しかし、子どもから高齢者まで皆が安心して視聴できる内容を提供しないといけないということから、エッジが効いた内容や特定の人たちに向けた内容がなかなか制作できず、結果的に多様性を失ってしまうことになっている。」と分析しました。その上で、「海外に比べて日本は番組を非常に多く制作しているので、少し番組制作数を減らし、本来の放送法の精神に立ち返り、多様で包摂的な内容とは何かを考え、幅広い視野で制作する姿勢に戻らないといけない」と述べました。
5)どうする受信料制度 ~サブスク化?税金化?わかりやすい議論の必要性~
番組では受信料制度についても議論が及びました。受信料は、国民の知る権利を保障し民主主義を下支えする公共放送を支えるための“特殊な負担金”という位置づけですが、番組では、ひろゆき氏からは“実態はサブスク”、そして司会を務めるテレビ朝日の平石直之アナウンサーからも“サブスクだと捉えられている”との発言がありました。また、パックン氏からは、「日本に来た時からずっと受信料は税金化すべきだと考えていた」との意見も投げかけられました。
私からは、欧州の複数の国では公共放送を支える仕組みが受信料から税金に移行しているという状況を紹介した上で、「税金にすると、額や使い道の決め方、放送の内容に政府の関与が入ってしまうおそれがある。独立したメディアという立ち位置を担保するためにも、いきなり税金とするという議論は難しい」と回答するにとどめました。受信料制度について論じるには、今回の番組ではあまりに時間が足りないと考えたからです。
しかし、番組のアーカイブを配信しているYouTubeや、ABEMATimesが転載されたYahoo!トピックスのコメント欄には、受信料に関するネガティブな意見が多くを占めていました。受信料を負担する側にとってわかりやすい議論、開かれた議論をしていくために、私にできることは何か、考えていきたいと思います。
おわりに
放送業界、メディア関係者、政策担当者とのやりとりが多い私にとって、今回のABEMA Primeへの出演は非常にいい経験となりました。調査の詳細や制度の話はどうしても複雑で話も難解になりがちですが、放送業界以外の人たちや一般の人たちに理解してもらえるようにわかりやすく、しかし情報量は薄くならず伝えていくことができるよう、今回の経験を糧に、引き続き努力していきたいと思います。
(注1)保髙隆之 ・ 伊藤文 ・ 山下寛生「人々は放送局のコンテンツ、サービス にどのように接しているのか~「2025年全国放送サービス接触動向調査」の結果から~」(『放送研究と調査』2026年1~2月号) P24~29の単純集計表より引用
(注2)総務省|スポーツを観る機会の確保及びスポーツ放映に関する検討会|スポーツを観る機会の確保及びスポーツ放映に関する検討会
(注3)注1参照
