総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」とは何だったのか?①(5月31日記) 


 

2021年11月から4年半にわたって行われた、総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」の議論が一区切りを迎えた。今後、放送政策の議論は、新たに「情報通信審議会」に設けられた「放送政策委員会」に場所を変えて議論が進んでいくことになった。そこで、4年半の議論を改めて振り返っておきたい。長くなるので、数回に分けて掲載していく。今回は、検討会の立ち上がりの経緯と第1次取りまとめまでを記載した。

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総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」とは何だったのか?①

はじめに

 2026年5月19日、総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(以下、在り方検)[1]」が第4次取りまとめ[2]を公表した。在り方検は4年半にわたって議論が行われ、親会で44回、6つのワーキンググループ(以下、WG)など[3]もあわせると100回近くの会合が開催されてきた。在り方検はこの第4次取りまとめで一区切りとなる。

 筆者は、2011年の地上放送デジタル化(以下、地デジ化)以降の放送政策についてウオッチし、議論の整理や課題の提起を行ってきた。在り方検については、第2次取りまとめ[4]までは、所属していたNHK放送文化研究所が発行する「放送研究と調査[5]」で、その後については本ウェブサイトや、民放連のウェブメディア「民放online[6]」で発信してきた[7]。特に、ここ半年に及んだ民放ローカル局経営に関するマスメディア集中原則の緩和、いわゆる「1局2波」の議論については、議論に伴走する形で論考を出し続けてきた。

 本稿では、これまでの自身の論考の内容も踏まえながら、4年半に及ぶ在り方検の議論を振り返り、その成果と今後に積み残された課題について筆者なりにまとめておきたい。

1)在り方検の位置づけ

 2021年11月に開催された在り方検の初回では、総務省事務局から、立ち上げの背景と目的が以下のように示されている。「ブロードバンドインフラの普及やスマートフォン等の端末の多様化等を背景に、デジタル化が社会全体で急速に進展。視聴者のテレビ離れが進み、インターネットによる動画視聴が進展する中、従来の地上テレビ放送のネットワークインフラの維持が困難となると考えられる一方、一部の放送事業者において放送コンテンツのインターネット配信の取組が進められている。こうした状況を踏まえ、(中略)中長期的な視点から検討を行う[8]」。

  在り方検の前には、2015年から6年間、「放送を巡る諸課題に関する検討会(以下、諸課題検)」が行われていた。筆者は、諸課題検の議論を振り返り、2022年7月の論考[9]で、「諸課題検では、『通信・放送融合』 時代にどう向き合うのかという問題設定は示されていたものの、軸足はあくまでテレビ端末、放送波に置かれていた。そして事務局のスタンスも、業界の枠組みは大きく変えないというものであったように思う。しかしこの時期、放送事業を取り巻くメディア環境やビジネス状況は、これまでにないほど急激に変化していた。そんな中、公共メディアを標榜しながらも、その具体像を多くの人たちに納得できる形で提示できなかったNHKと、既存の枠組みを変革することに消極的だった民放によって、必ずしも未来を見据えた建設的な議論にならなかった側面も少なくなかった」と記している。

 その上で、新たに始まった在り方検については、「総務省は、これまで放送業界もしくは放送行政が常套句として用いていた『通信・放送融合』の時代から、さらに一歩進んだ『オールIP化』の時代の放送業界のあり方を見据え、ふさわしい政策への脱皮を図ろうとしているのではないかと受け止めている。その意思は初回の会合時から感じたし、それがゆえに放送業界も、いささか騒然としつつも、これまでは真正面から向き合ってこなかったテーマについても議論しようという空気が生まれている」と期待を込めて記していた。

 図1は、在り方検の初回に示された論点と、それに対応する具体的な小論点を、事務局資料をもとに、当時、筆者がまとめたものである。現時点で振り返ると、この4年半の間に、全ての小論点が議論され、それぞれに何らかの制度改正が行われてきたことがわかる。

<図1> 在り方検の開始当初に示された論点

 ただ、中長期的な視点で見るとどうだろうか。筆者は議論開始当時、「提示された論点はそれぞれが非常に複雑に絡み合っており、個々の論点をつなぐ俯瞰的な視野を持たなければ放送メディアの未来像は見えてこない。また、長期を見据えたうえでタイムラインを設定して議論を進めていかなければ、かみ合った議論にならないのではないかと思われる」と指摘し、図2のような整理を行っていた。

<図2> 開始当初の論点と俯瞰的整理

 議論開始当初の整理であるため、議論が進んだ現時点から見ると、必ずしも的を射たものばかりではない。ただ、右側の「中長期的テーマ」のうち、制度改正が行われた(今後行われる)下2つ以外は、課題が拡大するデジタル情報空間の中で、または、放送局が伝送路として通信を活用していくことが必然となっていく中で、どのように放送概念を見直していくのか、また、どのように「放送の公共性」を再定義していくのかという本質的な論点につながるものであることを指摘していたとはいえるだろう。

2)「守り」の戦略・「攻め」の戦略 ~第1次取りまとめ~

 開始から1年弱が経過した2022年8月、在り方検は第1次取りまとめ[10]を公表した。図3は、総務省事務局が示した取りまとめの概要[11]と、それに対する筆者なりの整理を示したものである。前提にあるのは、メディア環境の変化によって放送の存在感は低下しているものの、デジタル情報空間の課題が増大する中において、取材・編集に裏打ちされた信頼性の高い情報発信を行う放送の価値は高まっており、「インフォメーション・ヘルス(情報的健康)」の担い手として、より積極的な役割が期待されているという認識である。そして、その役割を果たすためにも、放送局は2030年に向けて、コスト削減という「守り」の戦略と、ネット展開という「攻め」の戦略を実行すると共に、経営基盤の強化を図ることが必要であると示されたのである。

<図3> 第1次取りまとめの概要と筆者の認識

 具体的には「守り」の戦略として、民放とNHKの放送ネットワークインフラの共同利用型モデルとブロードバンド代替によるコスト削減などが示された。そして、「攻め」の戦略としては、放送コンテンツのネット展開やNHKのネット活用業務の見直しの方向性が示された。また、経営基盤強化策としては、複数地域の放送番組同一化と、認定放送持株会社の地域制限撤廃や一定の制限の範囲内において地上テレビ放送で隣接・非隣接に関わらず兼営・支配を可能とするといったマスメディア集中排除原則の緩和が行われることになった。

 この第1次取りまとめは、改めて現時点から振り返ってみても、わかりやすい整理であった。その後の議論も、基本的にはこの道筋に沿って検討が進んでいく。ただし、筆者はこの時点で、事業者のコスト負担の削減という「守り」の戦略である、エリア制御を伴うIPユニキャストによるブロードバンド代替と、インターネット上での放送の価値の浸透という「攻め」の戦略である同時配信サービスの推進は、ユーザーから見た場合はほぼ同じサービスであるため、別の政策として捉えるのではなく、地続きで考えて行く必要があるのではないか、と考えていた。“わかりやすい整理”であるが故に、それぞれが個別に対応されていくことに対する懸念があった。

 2022年8月の論考では以下のような指摘を行っている。「総務省は、伝送路においては通信と放送の垣根をなくし、経済合理性で判断していこうという意思があるのでは、と書きましたが、そのための放送制度をどのような姿にしていこうとしているのかについてはまだ見えません。通信として位置づけられており品質の厳密な保証も難しいと想定されるIPユニキャスト方式による代替を、放送法や著作権法でどのように位置づけていくのか。この問題は、そもそも放送の定義とは何か、ユニバーサルサービスとは何かという根源的なテーマにつながります。また、放送規律や受信料制度,既に行われている放送事業者による同時配信等の配信サービスやケーブル再放送サービス等との関係も整理していかなければなりません」。

 その後、ブロードバンド代替は、TVerやNHKプラスと同様の、放送局からインターネット網を通じて一般家庭に届けられる一般的なネット配信の仕組み(左)ではなく、いったん、放送波を受信点で受け、そこからインターネット網を通じて放送対象地域内の一般家庭に届けられる仕組み(右)が採用されることになった(図4)。そのことによって、CATVやIPマルチキャストの地上同時再放送と同様に、「地域限定特定入力型自動公衆送信」という位置づけに整理された。

<図4> ブロードバンド代替:当初検討されていた仕組み(左)と採用された仕組み(右)

 ※次回に続く


[1] https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/index.html

[2] 総務省|報道資料|「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ(第4次)」及び意見募集の結果の公表

[4] 総務省|報道資料|「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ(第2次)」及び意見募集の結果の公表

[5] https://www.nhk.or.jp/bunken/d/book/monthly/2026/05/

[6] 民放online|日本民間放送連盟のウェブマガジン

[7] 論考等は本ウェブサイトの下記に集約している

論考(放送政策) – メディア研究者・村上圭子

論考(地域メディア) – メディア研究者・村上圭子

[8] 在り方検第一回総務省事務局資料「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」の概要https://www.soumu.go.jp/main_content/000777187.pdf

[9] 村上圭子「これからの”放送”はどこに向かうのか?Vol.7~「諸課題検」から「在り方検」へ~」〈2021年2月~2022年4月〉」『放送研究と調査』(2022年7月号)NHK放送文化研究所 https://www.nhk.or.jp/bunken/d/research/domestic/BUNA0000010720070001/

[10] https://www.soumu.go.jp/main_content/000831138.pdf

[11] https://www.soumu.go.jp/main_content/000828826.pdf

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