去年から、放送文化基金の放送文化部門の専門委員の末席に加えていただいています。放送文化部門は、ドラマやドキュメンタリーなどのコンテンツの審査の部門とは異なり、局の取り組みや個人の活動に焦点をあてて審議しています。放送の公共性とは何か、ドキュメンタリーやジャーナリズムの今日的意義は何か、地域メディアの存在意義とは何か、など、1つ1つの取り組みから多くの学びがあり、私にとって宝物のような時間を毎年過ごさせていただいています。今年は33件の自薦他薦の候補があり、その中から下記の4件が受賞しました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
西村匡史(TBSテレビ) 17年にわたる「死刑」当事者の肉声記録と番組の制作
「郷土劇場」制作チーム(沖縄テレビ放送) “ウチナー芝居”といわれる郷土芸能文化を65年間にわたって継承してきた功績
アイヌ差別取材班(北海道放送) 10年にわたるアイヌ民族への差別・ヘイト問題の放送活動と行政を動かした実績
NHK「ディープオーシャン」シリーズ制作チーム 長年にわたり深海シリーズを制作し世界へ国際展開した実績
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
以下は私の選考記です。
「リスクを取る」。放送文化部門で受賞した4件に共通するものとして、思い浮かぶのはこの言葉である。1言ずつコメントしたい。
北海道放送のアイヌ差別取材班。差別を受ける側に立って報道する、そんな当たり前のことが局にとってリスクとなりかねない時代に、果敢に報道を続け、行政も動かした。こうした制作者や局が存在していることを、放送関係者の末席の者として誇らしく思う。
TBSテレビの西村匡史氏。17年にわたり、死刑の当事者やその家族の肉声を通じて、死刑制度を世に問い続けてきた。加害者の側に立って報道し続けることには勇気が必要だ。しかし、そこからしか見えない矛盾や課題もある。日本が、死刑制度という難問に向き合うことを諦めないためにも、是非、継続してほしい。
沖縄テレビ放送の『郷土劇場 芸能の広場』は、65年にわたって続けてきた、郷土芸能文化を継承する番組だ。YouTube配信では世界各地の沖縄出身者が視聴している。ローカル局の経営が厳しくなる中、継続は容易なことではないだろう。地域メディアのアイデンティティを貫く覚悟を学ばせてもらった。
最後にNHKの「ディープオーシャン」シリーズ制作チーム。”撮れ高”が読めないリスクを抱えながら、深海で未知の映像を追い続けた、NHKにしかできない取り組みである。OTTが隆盛な中、NHKには、日本のコンテンツ制作の底力を世界に発信し続ける役割を引き続き担って欲しい。
