はじめに
総務省「放送政策委員会」の1、2回目の議論について、「情報空間が多様化する中での放送の価値・役割」についての論点は前の原稿で整理しました。今回は、もう1つの論点「放送サービス・産業、放送インフラ、公共放送(NHK)のあるべき姿」の中から、ローカル局の今後についてとりあげます。議論を整理するとともに、専門委員としての自身の発言を記録しておきます。

*ローカル局の今後
1)地域放送メディアの今日的役割
放送政策委員会の議論では、ローカル局の今日的な価値・役割について十分に確認する前に、経営効率化や再編を前提とする意見が中心になってしまっている印象があり、それについては少し残念な思いがあります。また、地域メディアの今後を俯瞰的に考えていくには、ローカル局に特化した議論ではなく、せめて、地域の放送メディアであるケーブルテレビやコミュニティ放送についても視点を広げて、相互補完や役割分担も視野に入れた議論をしていくべきだと私は考えています。そのため、1回目の会合で以下のような発言をしました。
「地域の放送メディアの役割は、これまで地域情報、コンテンツ制作の担い手だという文脈で語られることが多かったと思います。制作力の強化、ネット上における流通の強化に関する議論が行われてきたし、一定の施策も提示されていると思っています。
しかし、地域を訪ねると、そこにとどまらない幅広いメディア機能が実践されているということを実感しています。例えば、放送による利益というアセットと、メディアとしての信頼を背景に、地域社会への活性化を様々な主体と連携して取り組むことで、地域の資金循環に寄与する「地域プロモーター」としてのローカル放送です。
地上波の議論ばかりになりがちですけれども、インターネットサービスとDXで課題解決の「地域プロデューサー」を目指しているケーブルテレビや、生放送などを通じて地域の人々の社会参加の場として多様な人を包摂する「地域サポーター」としてのコミュニティ放送もあります。
今はこの役割がそれぞれの局の業務に紐付いた形になっていて、なかなかそれが、広告などの既存のビジネスを大きく補完する形になっていないものの、こうしたメディア機能は、地域にとって、情報コンテンツとともに大きな財産だと思うのです。
今後、ローカル局の再編や統合、経営困難による閉局などがあっても、こうして育まれてきた地域メディア機能が失われないようにするために、地域の目線でどのような施策や振興策があるかということも考えていく必要があるのではないかと思っています。」
2)放送三原則とローカル局の今後
2回目の議論では、「多元性・多様性・地域性」つまり、放送三原則も論点となりました。そのうちのローカル局に関わる以外の議論については前回の原稿で紹介しました。それ以外に出た発言としては、「生き残りのために独占の方向に進まざるを得ないが、悪貨が良貨を駆逐しないようにする必要がある(内山委員)」 「三原則をどう達成するかという視点で、制度、ビジネス、インフラの3つの層をまたいで情報流通全体のエコシステムの再設計が必要(山口委員)」「ビジネスモデルのアップデートや、地域情報の伝達等の公共インフラ的なサービスを提供する社会的責任に対するサポートも必要かもしれない(柳川委員)」といった内容が示されました。
また、ローカル局の価値や今後については、「地域の安全、文化、生活情報を統合的に扱う地域情報ハブとして機能することで、配信サービスでは代替しにくい地域密着型の価値を生かすことができるのではないか(柿沼委員)」といった意見もありました。
私は下記のような発言をしました。
「放送三原則の形骸化、つまり、多元性の維持が必ずしも多様性・地域性の確保につながらないという議論の方向性は、先の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(以下放制検)」である程度コンセンサスが得られて、いわゆる1局2波の制度改正も行われたのではないかと私は理解しています。
ただ、これらの規制緩和施策というのは、政策に対して一定の市場原理を導入するということにすぎず、それが、直接的に地域性・多様性の確保にはつながらないと考えています。うがった見方をすれば、規制緩和は事業者の経営基盤強化にはつながるけれども、広告収入が見込めない狭域の地域を扱うニュースや番組が減少することにもつながりかねないと危惧しています。
放制検ではそのため、事業者が提供する多様性や地域性の指標化のようなことが議論されました。私は、事業者が積極的にそうした取組を進めるための自主的な目標設定やその公表というのは非常に期待したいところなのですが、国による規制という議論はなかなか難しいのではないかと思っています。
先週、韓国へ行っていたのですけれども、イギリスや韓国は、放送事業者への支援ということだけでなく、地域に根差している制作者やジャーナリストに注目して、多様な視点を提供する地域ニュースや地域の権力監視に資するようなドキュメンタリー、課題解決のために市民を巻き込んだ討論番組などを制作することに対する支援や、ローカル局がOTTへ展開するための支援などの枠組みがあります。
両国では地域メディアの経営が厳しくなる中において、その機能をさらに拡充していく方向で議論が進んでいます。イギリスはBBCの受信許可料、韓国は日本の電波利用料に似た仕組みの基金を活用しています。
現在、日本でも、日本の経済成長に資するための、エリア外や海外への発信に重きを置いたローカル局のコンテンツ制作支援をしていると思うのですけれども、あわせて地域の情報基盤、ことさら民主主義を支えるというまなざしへの支援策というものも検討し、地域性・多様性の確保を、放送局の維持ではなく、メディア機能の維持というところに方向性を示しながら進めていくことが必要なのではないかと思います。」
おわりに
ローカル局の経営基盤強化については、これまでも様々な形でマスメディア集中排除原則の緩和を通じて、事業者の経営の選択肢を拡大してきました。現在は、その選択肢を活用するのかどうかは事業者に委ねられています。こうした中、放送政策として何をすべきなのかについては、もう少し議論を重ねていく必要があると思います。事業者の更なる経営の効率化のみならず、これまで放送事業者として負ってきた負担の軽減も必要かもしれません。ただ、こうした議論を事業者目線ではなく、地域目線で考えて行く必要があります。「地域に住む人たちが入手できる地域情報の格差を拡大させないためには何が必要なのか」「地域の課題がより大きな過疎地や高齢化率の高い地域において、地域メディア機能を向上させるために何が必要なのか」といった観点で、放送政策として出来ることは何なのかを考えていきたいと思います。