「臨時災害放送局」の今後につながる議論はできたのか?(6月13日記)
~「広域大規模災害を想定した放送サービスの維持・確保方策の充実・強化検討チーム」論点整理案から考える~
はじめに
2025年2月から総務省で開催している「広域大規模災害を想定した放送サービスの維持・確保方策の充実・強化検討チーム(以下、検討チーム)1。筆者はこれまで3回にわたり、「広域大規模災害に関する放送政策議論に期待すること」と題した論考2を発表してきました。今回は6月6日に公表された論点整理案3の中から、これまで筆者が関心を持って取材・調査をしてきた臨時災害放送局に関する内容を中心に整理し、課題を述べておきたいと思います。
1)最も具体的な代替策として示されたのは「衛星放送活用」
今回の検討チームで最も重要な論点は、南海トラフ地震のような広域大規模災害が起き、地上放送(ケーブルテレビによる再放送を含む)が停波するなどしてその地域に情報が伝達されなくなった場合の代替(補完)策を検討するということでした。候補にあげられたのは、ネット配信、衛星放送、臨時災害放送局の3つでした(図1)。
図1 地上放送の代替として示された3つの候補

このうち、今回、論点整理案として最も具体的な方策が示されたのは衛星放送の活用でした。東経110度CSで放送中のキー局系ニュース専門チャンネル、「日テレNEWS24」「TBS NEWS」を、災害発生時にスクランブルを解除し、1か月間をめどに提供することが示されました。
2)臨時災害放送局について示された2つの方向性
では、臨時災害放送局についてはどのような方向性が示されたのでしょうか。臨時災害放送局とは、災害発生時、被害軽減などを目的に臨時かつ一時的に自治体等が開設するFM局のことで、阪神・淡路大震災の時に誕生した制度です。これまで30年の間に55局が開設されてきました4。検討チームの議論では、大規模広域災害に備え、開設を促進させていく必要があるという問題意識から、これまで課題とされていたことが洗い出されました。
論点整理案で示された改善の方向性は2つです。1つ目は、開設に必要な無線従事者資格の緩和です。現在、臨時災害放送局を開設・運用するには「第⼆級陸上無線技⼠(以下、二陸技)」以上の資格者が必要となっています。しかし、難易度の高い二陸技の資格を持つ人は少なく、臨時災害放送局の開設にあたり難航した事例もありました。
一方、コミュニティ放送局については、2019年に、二陸技より平易な資格である「第⼆級陸上特殊無線技⼠(以下、二陸特)」でも開設・運用できるよう、電波法施行令が改正されて要件が緩和されていました。しかし皮肉にも、そのことで、コミュニティ放送局が被災地となった場合に臨時災害放送局に移⾏したり(平時は民間の運営ですが、災害時は自治体などに免許を移行することで、電波の出力をあげたりすることが可能=移行型)、コミュニティ放送局が、新たに自治体などが立ち上げる局(新設型)の設置・運⽤を⽀援したりすることが難しくなってしまったのです。今回の論点整理案でようやく、常設局(コミュニティ放送局)が臨時局(臨時災害放送局)より技術的要件が低い、という“ねじれ状態”が解消される道筋がつきました。
2つ目は、災害が起きた際に臨時災害放送局の開設を希望する自治体には、優先的に使用できる周波数をあらかじめ通知するという方向性です。検討チームには、熊本地震で臨時災害放送局を運営した実績を持つ益城町の担当者が構成員として参加していましたが、当時を振り返り、住民に周波数などの周知が徹底できなかったという課題を述べました。その上で、⾃治体毎の周波数の固定化があれば、平時からの周知啓発が可能となるという問題提起を行いました。
実は、この「優先的に使用できる周波数をあらかじめ通知する」方向性ですが、すでに関東地区と和歌山沿岸地区では実施されている施策です。今回の論点整理案で、全国的な展開を進めていくことになったのは非常に望ましいと考えています。筆者は関東にも和歌山にも関わりを持たせてもらっていますので、以下、両者の取り組みを簡単に紹介しておきます。
関東地区は、FM放送に活用できる周波数が逼迫しており、コミュニティ放送局の開局も難しい地区です。そのため、災害が起きたとしても臨時災害放送局⽤周波数の確保が難しいという事情を抱えていました。しかし、首都直下地震への備えとして、放送⼤学学園(FM)が以前に使⽤していた周波数を臨時災害放送局⽤周波数とすることが制度化されました5。 関東総合通信局は、自治体に対して災害時に臨時災害放送局の開設を希望するかどうか調査を行い、希望する自治体は現在、ウェブサイトなどで臨時災害放送局⽤周波数を住⺠へ周知し、防災訓練も行われています[6]。ただ、活用できる周波数が、77.1MHzと78.8MHzの2つに限られているため、多くの自治体が開設を希望する場合には様々な調整が必要となってきます。この課題については改めて別稿にて論じたいと思います。
関東の取り組みは、放送大学学園が活用していた周波数の活用という特殊な事情によるものですので、以下に述べる和歌山沿岸地区の取り組みの方が、全国的に展開する際には参考になるのではないかと思います。
和歌山沿岸地区の取り組みの内容とは、近畿総合通信局(以下、近畿総通)が、南海トラフ地震に備え、沿岸12市町村に対して臨時災害放送局を同時開局できるかどうか周波数を選定するシミュレーションや実地調査を実施し、その結果を自治体と共有するというものです(図2)7。
図2 近畿総通資料

和歌山県の取り組みの特徴は、近畿総通がイニシアチブをとるだけでなく、地元の放送局や通信事業者などで組織する和歌山県情報化推進協議会(以下、WIDA)も率先して自治体と共に開設・運営の訓練を行ったり、災害が起きた時に、臨時災害放送局の業務を支援する意欲を持つボランティアや無線資格者の登録制度を設けたりしていることです8。
今回示された方向性をきっかけに、こうした事例なども参考にしながら、各地の総通、自治体、市民の間で具体的な議論が始まることを期待しています。
3)果たして今後、臨時災害放送局の開設は進むのか?
しかし、筆者はこの方向性だけで臨時災害放送局の開設(準備も含む)が進むとは考えていません。先の能登半島地震では臨時災害放送局が1局も開設されませんでしたが、その理由として、検討チームの構成員である石川県の担当者が強調していたのが、開局後の運営費への財政的な支援制度がないことでした。これは、筆者が輪島市など、能登半島地震の自治体にヒアリングした際にも同様の話を聞きました。
また検討チームでは、総務省との間で臨災局の開設支援協力協定を締結9しているコミュニティ放送局の業界団体(JCBA)へのヒアリングがありましたが、そこでは、支援活動に必要な費用の財政補填が要望されていました。しかし今回、これらの財政的支援を求める意見が論点整理案に反映されることはありませんでした。
筆者は東日本大震災以降、15年にわたり、臨時災害放送局の開設や運営の調査・研究をしてきました。この制度は、周波数さえ空いていれば、自治体などが総通に電話1本で免許を受け、開設することができる非常に柔軟なものです。しかし、運用については財政的支援の枠組みが存在していないため、各種助成団体による資金、ボランティアの住民や支援者による善意によってなんとか綱渡りで維持されている極めて脆弱な制度であるというのが、実態を見てきた筆者の印象です。
臨時災害放送局についてはこれまで、災害の度に各種メディアから、“被災地の美談”として取り上げられることも少なくありませんでした。しかし筆者は、災害時という混乱した状況の中で、正しい情報を必要な被災者に確実に届けるための制度が、このような“行き当たりばったり”とも言えなくないような運用でいいのかということについては疑問を持ち続けています。
また、前出の総務省とJCBAとの協定は、どうやって放送を行ったらいいのかわからない“素人”の自治体が、コミュニティ放送局の“プロ”から指南を受けることができるという非常に有意義な取り決めではあります。しかし、ただでさえ脆弱な経営基盤が大きな課題となっている民間経営のコミュニティ放送局に対して、支援を“手弁当”で行うことを強要することになってしまうのではないかと筆者は懸念しています。
今回の検討チームの議論は、臨時災害放送局の免許を付与し“開設”することに関する改善策は示されましたが、“運用”に関する方向性は示されませんでした。臨時災害放送局を地上放送の代替策として検討するという“お題目”がついた今回こそ、実態を踏まえた実効性のある方策が打ち出されることを期待していただけに、今回の論点整理案にはとても残念な印象を抱きました。今後、新たに設置される防災庁など、より幅広い視点で防災や災害対策を議論する場で検討を継続してほしいと考えています。
おわりに
今回の論点整理案には、「コミュニティ放送事業者についての財政健全化に向けた取組」という項目もありました。内容としては、「総務省としてもコミュニティ放送事業者の経営安定化の⼀助として、地⽅⾃治体との連携促進や地域住⺠に対するコミュニティ放送の活動の認知・理解を深める機会を創出する等の取組(中略)にコミュニティ放送事業者と協働して参画する等の⽀援を実施、促進することも考えられるのではないか」という言及にとどまっていましたが、筆者のコミュニティ放送局に対する問題意識を最後に記しておきます。
コミュニティ放送局と災害の関係性でいうと、次第に“二極化”が起きているのではないかと筆者は考えています。自治体の災害時の情報伝達手段に対する関心が、ウェブサイト、LINE、アプリ、SNSなどのネット活用に傾き、ラジオに対する優先順位が低くなる中、コミュニティ放送局へ広報・防災対策費の削減・打ち切りが相次ぎ、廃局する事例や経営が困難になる事例が増えています。一方、防災行政無線を廃止した(もしくは一部整備に留めた)自治体においては、コミュニティ放送局の電波を活用して屋外拡声子局のスピーカーで情報を伝達したり、自動起動ラジオを住民に貸与・購入支援策を講じたりするなど、防災行政無線の代替としての活用を進めています。こうした自治体にとっては、コミュニティ放送局は災害時の情報伝達手段としてなくてはならない存在となっています。この二極化をどう考えていけばいいのでしょうか。
また、コミュニティ放送局の本来の制度のねらいは、臨時災害放送局のような自治体が免許人となる“自治体広報”のメディアではなく、民間事業者が免許人(制度的に自治体は免許人になれないのが同じ地域メディアのケーブルテレビとは異なる)となって運営する“市民主体”のメディアです。災害時のつながりは、あくまで非常時の際の対応にすぎません。基幹放送事業者でもあるコミュニティ放送局は、地域メディアとして、今後、自治体との距離をどう考えていくのか。このあたりも局によって考え方が大きく異なっています。
非常に多種多様多彩な特徴を持っているのがコミュニティ放送局の魅力でもあります。ただ、1992年に制度が誕生してから30年を過ぎました。経営基盤の問題などが大きくクローズアップされる中、改めてコミュニティ放送局の制度のあり方、事業者の役割について検討する場があってもいいのではないかと考えています。筆者の1つのテーマとして、引き続き追いかけていきたいと思います。
[1] 「デジタル時代における放送政策の在り方に関する検討会」の下に設けられた会合https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/index06.html
[2] https://bushwarbler.jp/torinokosanai/
[3] https://www.soumu.go.jp/main_content/001013515.pdf
[4] 臨時災害放送局の詳細はhttps://www.slideshare.net/slideshow/2025-4-25-fm-pdf/278822467
[5] https://www.nhk.or.jp/bunken/research/focus/f20220501_1.html
[6] https://www.soumu.go.jp/soutsu/kanto/bc/rinsai/renrakukai.html
[7] 詳細は・・・自治体による災害時のラジオ活用をどう進めるか? | NHK文研
[8] https://wida.jp/act/rinsai_musen/