~約4か月ぶりの「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会[i] 」(親会)開催~(5月14日記)
はじめに
私はこれまで約10年間、国の放送政策議論をウオッチし、定期的に論考を発信し続けてきました。先日は、これまでの総務省における議論を私なりの視点でまとめた「今後の放送政策議論に向けて(疑問の詳細と議論への期待)[ii]」を公開しました。
この放送政策議論のウオッチ&発信は、今年1月末まで在籍していたNHK放送文化研究所(以下、文研)における主要業務の1つでした。文研は、NHKの一組織ではありますが、NHKのためだけではなく、豊かな放送文化を創造するために必要な調査研究を行う組織です[iii]。視聴者離れが進む放送やNHKの未来について、インターネット上の課題が増え続ける中でのメディアの公共的な役割について、国では今どのような政策議論が行われているのか、できるだけわかりやすく、できるだけ客観的に、視聴者や市民、放送局で働く人たちやメディアを研究する人たちなどに伝えることが、公共放送の職員としての、文研の研究員としての役割だと考え、取り組んできました。
NHKを辞めたのだからもっと自由に発信してもいいのではないか、と言われることもあります。もちろん、これからはそうした言論活動も増やしていきたいと思っています。ただ、これまで行ってきた取り組みも、可能な限り継続していきたいと考えています。なぜなら、国の免許事業であり、放送法上で役割や行動を規律されている放送やNHKの未来には、総務省の検討会の議論が大きな影響力を持っているからです。このほか、内閣府の規制改革推進会議や、自民党の情報通信戦略調査会の提言にも影響を受けています。これらの議論には課題も少なくないですし、そもそも議題に上がらない論点こそが重要だと感じることもありますが、何が論じられているのかを踏まえなければ、それを補う議論や、乗り越える議論はできないというのが私のスタンスです。
公共放送を支える受信料制度は今後どのような姿が望ましいのか。信頼できるメディア機能を社会でどのように維持していくのか。人口が減少する地域におけるメディアの形をどのように考えていくのか。放送局が活用している公共の電波をどのように有効活用していくのか。放送=オールドメディア、テレビ=マスゴミといった感覚や受け止めをしている市民にも広く関心を持ってもらえるよう、政策議論はできるだけ社会に開いていかなければならないと思っています。そのためにも、まずは放送やメディア業界に関わる人たち、関心を持つ人たちに向けて発信を続けていきます。
前置きが長くなりました。本日の論考は、4月25日に総務省で開かれた「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(以下、在り方検)」の親会についてです。2024年12月に「第3次取りまとめ[iv]」を公表してから約4か月ぶりの開催となりました。この日の会合は、事務局による報告と有識者による今後の放送政策議論への問題提起に多くの時間があてられました。振り返っていきます。
⑴第3次取りまとめ以降の動き
会合ではまず事務局から、第3次取りまとめ以降の放送に関連する動きが紹介されました(図1[v])。
(図1) 在り方検・事務局資料(※赤で示した番号は筆者が加筆)

放送業界にとっての大きな節目は、ラジオ放送開始から100年を迎えた3月22日でした(①)。NHKはじめ各局では、その前後に関連した特集番組が放送されました[vi]。
ただ、視聴者や市民にとっては、放送100年というタイミングよりも、2024年11月の兵庫県知事選挙で問われた報道のあり方[vii]や、2025年1月から様々な動きが続いているフジテレビを巡る問題[viii]の方が、放送の課題や今後について考えるきっかけになったのではないのではないかと思います(②)。
この他、図1には、放送制度に関する動きも記載されています。③は令和5年の放送法改正でNHKに課せられた、インターネット活用業務の必須業務化と、放送インフラ維持に関する民放への協力義務に関する動きです。④はAMラジオ放送の運用休止やFM転換に向けた動き、⑤は地上放送のブロードバンド代替に関する放送法・電波法の改正に向けた動きです。この他、4月には、日本テレビ系列のローカル局4社が経営統合し、新たな認定放送持株会社であるFYCS「読売中京FSホールディングス」が発足したという動きもありました(⑥)。
⑵事務局の問題意識(議論のたたき台)
事務局からは、今後に向けた「議論のたたき台」も示されました(図2)。放送の価値・役割については、2021年11月に在り方検が開始されて以降、断続的に議論が続けられてきましたが、偽・誤情報の流通の加速などの昨今の動きも踏まえ、今後、より本質的な議論を行った上で、放送局が価値・役割を実現する上で必要な制度や施策を検討していくという方向性が示されました。
(図2)在り方検・事務局資料

⑶有識者からの問題提起 6つの論点に整理
事務局からのプレゼンを受け、有識者からの問題提起が行われました。多岐にわたるそれぞれの発言を、主な論点として以下の6点に整理してみました。
①フジテレビ問題をきっかけにした「放送事業者のコーポレートガバナンス」
②「ブロードバンド代替」施策の実効性と今後
③AM放送の「FM転換」に伴う対応
④「基幹放送普及計画」の役割の再定義と今後
⑤「コネクテッドテレビ時代・OTT支配時代」における放送局ビジネス
⑥これからの「放送の価値・役割」のあり方
次回の論考からは、筆者の見解も交えながら個別に見ていきたいと思います。
[i] 2021年11月から総務省で開催中
[ii] https://bushwarbler.jp/seisakugirongimonkitai/
[iii] https://www.nhk.or.jp/bunken/about/index.html
[iv] soumu.go.jp/main_content/000981858.pdf
[v] https://www.soumu.go.jp/main_content/001006816.pdf P2
[vi] 放送100年に関するNHKの特集サイト https://www.nhk.or.jp/hoso100th/
[vii] 兵庫県知事選挙では、パワハラなどで議会から不信任を議決され失職した斎藤元彦氏が当選した。斎藤氏は、当初の予測では再選は難しいのではないかとされていた。NHKの出口調査では、投票する際に最も参考にしたものとして、SNSや動画サイトとの回答が30%で、新聞とテレビのそれぞれ24%を上回るという結果となった。選挙期間中には真偽不明な情報が大量にネット上に流通したが、こうした動きに対して、新聞や放送はどこまで迅速な事実確認や偽・誤情報への対応ができたのか、また放送局の選挙報道における公平性のあり方などが問われることとなった
[viii] 2024年12月末、複数の週刊誌が、フジテレビの番組に出演中だったタレント中居正広氏と同社社員との間で起きたトラブル事案を報じた。2025年1月17日に社長会見が開かれたが、生中継や動画撮影の禁止、週刊誌やフリーの記者などの参加を認めなかったことから批判が殺到。多くの広告主がCMをAC(公共広告機構)差し替え、その後はフジテレビと取引を停止する事態が加速した。フジテレビは1月23日付で第三者委員会を設置、27日には社長・会長が辞任、3月末に日枝久取締役相談役が退任した。3月31日付の第三者委員会による「調査報告書」では、今回の事案は、業務の延長線上における性暴力という人権侵害行為であると認められること、当時の社長らがコンプライアンスや経営リスクの問題としてとらえることができず、漫然と当該タレントの出演を継続させたことなどが指摘された。4月3日、総務省はフジテレビなどに対して行政指導を行い、4月30日にはフジテレビ側から総務省に対して、第三者委員会の報告書を踏まえた、人権・コンプライアンスに関する8つの具体強化策が報告された。村上総務大臣はフジテレビなどに対し、再発防止策に対する視聴者やスポンサー企業の反応や評価を分析した上で信頼回復につながる追加の対応策をまとめ、5月中に改めて報告するよう要請した