災害報道と災害情報伝達~ メディアの役割と課題を考える①~(8月8日記)

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はじめに

 7月28日の午後4時27分頃、熊本県熊本地方を震源とする最大震度7の地震が発生し、宇城市、氷川町、八代市、宇土市、益城町など、熊本県南部を中心とした地域が大きな被害を受けた。8月8日現在、地震に関連したとみられる39人の死亡が確認されており、このうち1人は、避難のために車中泊をしていて熱中症の疑いで亡くなった70代女性である。災害関連死が疑われているという。40度近い厳しい暑さが続く中、いまも6500人弱の人が避難生活を余儀なくされている。

 そして、8月6日からは、大型の台風13号が沖縄県や鹿児島県の奄美方面に接近し、暴風雨となっている。8月8日の朝現在、沖縄では本島北部を中心に約1万5千戸、鹿児島県では島嶼部を中心に約4万戸で停電が続いている。がけ崩れなどによる道路の通行止めも数多く報告されており、今後しばらく、土砂災害や高潮などへの警戒が必要である。

 筆者は、災害時におけるメディアの役割について調査・研究を続けているが、もともとは報道の現場でディレクターとして数々の被災地取材に関わってきた。こうした経験も踏まえて考えているのは、災害時のメディア活動とは、誰のために何のために必要なのか、ということである。現時点で考えていることを2回にわけてまとめておく。

1)災害報道と災害情報伝達

 まず、災害時におけるメディアの機能については、「災害報道」と「災害情報伝達」に分けて捉えることが必要だと考えている。図1は、筆者がこれまでの自身の取材、研究活動を通じて整理した、現時点における2つの機能である。

(図1) 災害時のメディアの役割

 災害報道から見ておこう。災害報道の最も大きな機能は、災害と被災の全容を把握し、被災地を含めて「全国・全世界に報じる」ことである。報道を通じて、被災地内外の人々の“知りたい”に答え、国や県などが対策を講じるための判断材料を提供し、被災地外からの支援のきっかけを作っていくことが主な目的である。もちろん、メディアとして災害を記録するという機能は大前提としてある。

 次に、災害情報伝達である。最も大きな機能は、被災地で必要な情報を、実情に合わせて「被災者に提供」することである。被災地で一人でも多くの命を救い、その命をつないでいくこと、そして、被災地の混乱を回避し、被災者の生活再建を支援していくことを主な目的としている。特に、放送法においては、「基幹放送事業者は、国内基幹放送等を行なうに当たり、暴風、豪雨、洪水、地震、大規模な火事その他による災害が発生し、又は発生するおそれがある場合には、その発生を予防し、又はその被害を軽減するために役立つ放送をするようにしなければならない。」(放送法第108条第1項)とされている。

 この災害報道と災害情報伝達の2つの機能は重なるところも多く、明確に切り分けることは難しい。ただ、全国・ブロック単位のメディア、県単位のメディア、自治体やコミュニティ単位のメディアと、どこに基盤を置いてサービスをしているのかによって、必然的に担う役割が異なるということはいえるだろう(図2)。被災地や被災地に近いメディアは、地域における住民の命と生活再建のための狭域の災害情報伝達に特化することになるだろうし、取材体制が分厚い全国メディアは、いち早く被災地に入り、もしくはネットワークを生かしながら、広域を対象とする災害情報伝達と共に、全国・全世界に向けて発信する災害報道を担ってきたのである。

(図2)災害時のメディア別の役割

2)発信と共有の時代 メディアの役割は?

 災害情報伝達における情報源の大半は、気象庁・国交省などの気象災害情報、被災自治体による避難情報や避難所開設情報、生活・行政情報、警察・消防による被害情報、ライフライン事業者による電気・水道・ガス・交通機関などの情報で、いずれも発表情報である。インターネットが発達する以前は、これらの発表情報を整理し、優先順位をつけてわかりやすく伝達する担い手として、放送や新聞は唯一無二の存在であった。また、長らく放送メディアは被災者の安否情報の伝達も担っており、NHKでは教育テレビやFMで放送を行ってきた。

 しかし、近年は被災自治体自らが、自営網である防災行政無線による避難情報だけでなく、その後の多様な災害情報についても、メールやウェブサイト、LINEなどを積極的に活用して、自ら「発信」することが一般化している。特にLINEについては、2024年の能登半島地震以降、自治体の利用が急速に拡大しており、 現在、全国の自治体の約84%が「公式アカウント」を持っている(注1)。LINEが自治体に普及した背景には、公共性の高い利用に対して一般のビジネスアカウントと異なる特別プランや優遇措置(メッセージ配信数の優遇等)が用意され、大規模災害時などにメッセージの配信数に関わらず無償利用できるようになっていることがある。PUSH通知機能で必要な時に必要な情報を届けられる仕組みや、ウェブサイトへの誘導のほか、避難所などで配布するチラシをPDFで添付したり、動画を配信することも可能である。

 今回の熊本地震では、八代市の公式LINEで、小野泰輔市長が毎日、約5分間のメッセージ動画を毎日配信している(図3)。

(図3)熊本県八代市公式LINEより

 また、ネット上で、市民が主体となって災害情報を「共有」する動きも急速に広がっている。能登半島地震の際には、コミュニティ毎に多くのLINEグループが自発的に誕生し、特定の地域に特化した情報を共有する動きが多く見られた。また、Facebook上には「珠洲市の災害情報共有」というページができ、店舗の開設情報やボランティア情報などを中心に市民同士が情報を共有し、約5000人が参加する情報プラットフォームとして活躍した(注2)。

 今回の熊本地震では、御船町で被災した方が、避難所で1人で生成AIを活用して、「令和8年熊本地震 生活情報板 イマココナビ」という生活情報サイトを作成。1日約7万人が訪れ、約16万回閲覧されるサービスとなっている。現在、継続して運営するためのクラウドファンディングが進行中である(図4)。

(図4)「イマココナビ」に対するクラウドファンディングページより

 以上のような、インターネットを活用した自治体による「発信」や、市民による「共有」が広がる中、メディアが果たしてきた「報道」や「伝達」の機能とそれに紐づいた役割については、再定義されなければならない時代を迎えているといえよう。

3)災害報道の役割と課題

 ここからは災害報道について考えたい。熊本地震について、体系的な報道分析ではなく、筆者が見聞きした報道の範囲ではあるが、思うところを述べておく。

*全国放送のニュース番組に対する違和感

 熊本地震が起きた1日半後、東京から各局のニュース番組のキャスターが被災地に入り、相次いでリポートしていることに対して、筆者は強い違和感を覚えた。全ての放送局とは言わないが、被害の大きな場所を訪れ、被災した人に対して「これからどうしようと思っていますか?」と、夜の生放送でマイクを向け、言葉に窮する疲れ果てた表情をアップで伝えていた。

 災害報道の役割の1つに、被災地外の人々の“知りたい”に応える役割がある。確かに、被災地はどんな被害になっているのか、被災者はどんな状況になっているのか、熊本から遠く離れた東京で、知りたいという思いは筆者にもあった。しかし、いま目の前にいる被災者の窮状をどうすれば改善できるのか、被災地の課題をどうすれば解決できるのか、災害時に特権的に被災地に入ることができるメディアの役割をもっと自覚して、被災者の目線での報道を行って欲しいと感じた。

*被災者視点の問題提起・提案型の災害報道

 発災直後から、被災者はエアコンのない避難所への避難や車中泊を余儀無くされていた。車中泊を継続するためには、ガソリンが必須であるが、給油もままならない状況が続いていた。筆者は、ニュース番組を見ながら、高齢者や障がい者、持病のある人たちや子供たちを、安心できる場所に二次避難や広域避難させることはできないのか、ということばかりを考えていた。被災地が孤立状態に陥った能登半島地震の時には、数日後から、寸断する道を避けながら移動し、借り上げたホテルで一時避難していた。あの時は寒さが最大のリスクだったが、今回は猛暑。同じくらいリスクは高い。
 避難は今後、長期化することは必至である。能登半島地震の時、金沢市のホテルの空き室を借り上げて避難所扱いとしたように、熊本市や周辺の都市部のホテルの空き室を活用することはできないのか。もしくは、ホテルは無理でも、冷房があって、車中泊などよりは環境のいい、被災地外の施設を被災者に開放することはできないのか。もちろん家族単位でなければ避難は難しいという人も少なくないと思うし、離れたくないと思う人が大半だとは思うが、このままだと、高齢者などに迫るリスクは確実に高まることは目に見えていた。だからこそ、言葉に窮する被災者にただ寄り添うようなインタビュー映像に、隔靴掻痒感しか感じられなかったのである。
 地震は天災だが災害関連死は人災である。自然災害を乗り越えて救われた命が、人為的な対応の至らなさで失われてしまうことは、過去の教訓が何も生かされていないことと同じである。10年前、多くの人が「人災」で亡くなってしまった熊本で、同じことがまた繰り返されていいのか・・・。

 メディアの中で、真正面から災害関連死とそれを防ぐための二次避難施策を取り上げたのは、7月31日のテレビ朝日系列の「羽鳥慎一モーニングショー」であった。非常にわかりやすく、現地に入ったフィールドワークの専門家と中継を結び、現状の課題を提起し、能登半島地震での取り組みも紹介しながら特集していた。残念だったのは、番組の最後に、今回の教訓を次に生かそうという話に着地してしまったことである。関連死は、いままさに現在進行形で熊本の被災地にある危機である。自治体同士の日常的な協定がないから受け入れられないとか、だからこれからは協定を結んでおこうとか、そういう話は、この災害の危機が去ってから議論すればいい。いま熊本の避難所にいる人たちの命を一人でも失わないようにするためにはどうしたらいいのかを提起してほしかった。とはいえ、この番組は、この日の放送に限らず、被災者の目線を意識し、東京から全国に向けて何が課題かを見据えながら、問題提起・提言型の災害報道を行っていたように思う。

 番組が放送された7月31日から3日後の8月3日、熊本県によるホテル・旅館への無償での避難の申し込みが開始された(図5)。被災地では猛暑に加えて断水も続いている。適切にこの施策が活用され、災害関連死が防げることを願っている。

(図5)熊本県によるホテル等避難の申し込みページ

*熊本県・木村敬知事の重い指摘

 8月6日、熊本県の木村敬知事は、会見でメディアについて、かなり強い言葉で苦言を呈した。

「報道の方にくれぐれもお願いしたいのは、遺族の方、被災者の方、被災自治体の職員の方々から、メディアの報道に対するきわめて強い不満、苦情が県や自治体に寄せられている。是非配慮のあった報道をお願いしたい。自治体の職員については、大変多忙な中で長時間拘束する、多数の質問、調査報道みたいな感じで、この数字はどうだ、この数字はどうだ、という調査を要求してくる」 

 この会見はメディアで報じられることはなかったが、SNSを中心に、メディアを批判する文脈で広く拡散されており、筆者もSNS上でこの会見内容を知った。この知事の発言の中で、遺族、被災者に対する対応は、今回の熊本地震に限ったことではなく、常に災害時にメディアスクラムとして提起される大きな課題である。同じメディアの端くれに身を置くものとして、消え入りたいくらい恥ずかしい思いになった。

 行政に対する取材については、遺族、被災者と一律に扱うべきかは意見は分かれるところだと思う。ただ、自治体職員も被災者の一人であり、被災者との板挟みに苦しみ、心身を病む職員も少なくない。そのため、災害から一定の期間は、日常の取材活動とは異なる配慮が必要であると筆者は考える。その際、取材の可否の判断基準は、この報道は誰のための、何のためのものなのか、ということである。被災者の命のため、被災地の混乱を回避するため、自治体への取材が不可欠であるという場合には、きちんと説明をした上で堂々と取材すべきであろう。

*災害報道におけるメディアスクラムの抑止・共同取材は実現出来るのか?

 筆者は、2011年の東日本大震災後、2015年の熊本地震後、2024年の能登半島災害後、教訓をどう生かすか、といった内容のシンポジウムや座談会に登壇したりモデレーターを務めたりしてきた。そこで必ずテーマとなるのは、メディアスクラムの抑止や、逆に報道空白地を生まないための共同取材体制の整備であった。

 東日本大震災後の15年の間に1つ成果があるとすれば、ヘリコプター取材における地域の放送局連携である。名古屋、北海道、福岡、大阪などで進んでおり、こうした動きは全国へと波及していくであろう。1995年の阪神・淡路大震災で大きな問題となって以降、改善されるのに20年あまりかかった。

 しかし、空中の取材の連携は進んでいるが、地上の取材の連携はいまだに進んでいない。被災地の地域メディアは、強い反省と問題意識を持ち、被災地の教訓を次につなげたいという思いを持っている。しかし、いつも議論が止まってしまうのは、最も大きな課題は常に、東京から被災地に全国メディアが大量に押し寄せたり、それもニュース番組を受け持つ報道セクションだけでなく、各種情報番組など1社で複数の取材クルーが押し寄せたりすることだからである。東京から来ているメディアを含む全てのメディアを、被災地を基盤とする地域メディアが主体となって仕切る枠組みが作れればいいのだが、東京と地方のメディアの力関係という事情もあり、現実は厳しい。

 そのため、筆者は、災害報道におけるメディアスクラムの抑止や共同取材の体制整備については、正論ではあるし改善すべきだと思うものの、実現にはリアリティが感じられないというのが筆者の率直な意見である。まず、こうしたハードルの高い正論の前に、取材者一人一人のモラルの向上と、1社で複数の取材クルーを被災地に出さないなど、組織の縦割りを排した調整を行う努力を、まずは実行すべきだと考える。特に、東京の全国メディアで、非報道セクションも含めて、こうした取り組みを徹底して欲しい。

*連携すべきは災害情報伝達と偽・誤情報対策

 ただ、先に述べたような、取材源が官公庁・自治体・警察消防・ライフライン事業者などの発表情報である災害情報の伝達については、どのメディアが取材をしても同じであるため、連携を進めていくことが望ましいだろう。連携の手始めとしては、各社それぞれ名称は異なるが、「ライフライン情報」「生活情報」として提供しているものから開始してはどうか。この連携はメディア側にとっても効率的であり、取材相手にとっても負担軽減になる。こうした連携の模索は関西での先行例もある(注3)。

 加えて、生成AIの登場によって偽・誤情報の拡散が加速する中、ファクトチェックや打ち消し報道におけるメディア連携についても早急に議論を進めるべきである。これについては、日本ファクトチェックセンター編集長の古田大輔が、海外のメディア連携の事例をあげながら、国内での連携を提唱している(注4)ほか、武蔵大学教授の奥村信幸氏も、「試論>災害報道に「共通プラットフォーム」を作れないか(前編):熊本地震の「情報の生態系」から考える」において、ノルウェーのメディア連携の取り組みを紹介し、同様に国内での連携を提唱している(注5)。

 筆者は、偽・誤情報対策のメディア連携については、緊急な対応を要する災害時と時間的制約を伴う選挙期間の2つに限っては、速やかに検討の議論に入るべきだと考えている。この分野で最も体制を整えて取り組んでいるのはNHKである。公共放送として、連携のイニシアチブを期待したいが、このテーマについては、改めて論じたい。

おわりに

 筆者は去年9月1日、熊本に拠点を置くNHKと県域民放で共同制作する熊本地震から10年の防災特集番組に出演し、取材で何度かお世話になった益城町役場の方のところにも伺い、復興に向けた歩みを伺った。熊本の皆さんの気持ちを考えると、いてもたってもいられない気持ちになる。どんな思いで、生活再建に向けて再び歩み始めているのか。被災地も、ようやく外からのボランティアを受け入れる状況になっているので、近いうちに伺いたいと考えている。

 次回の原稿では、「4)災害情報伝達の役割と課題」について、コミュニティ放送を中心に論じていきたい。こちらは、地震の被災地である熊本県だけでなく、台風の影響を受けた鹿児島県の奄美大島についても触れたいと思っている。

(注1)LINE公式アカウント地方公共団体プラン 媒体資料https://www.lycbiz.com/sites/default/files/media/jp/download/line-local-public-plan.pdf

(注2)村上圭子 「能登半島地震 被災地にどこまで情報は届いていたのか?~文研ネット調査の結果から読み解く~【研究員の視点】#545」(NHK放送文化研究所・研究員の視点)https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/500/670378.html

(注3)関西広域情報共通基盤の取り組みについて

https://www.dri.ne.jp/wp/wp-content/uploads/press2_3.pdf

(注4)古田氏は、日本メディア学会(2026年春季大会)で、フィリピンの「ファクト・ファースト(FactsFirstPH)」やEUの「EDMO」などの海外事例を紹介。https://www.jams.media/20260729-ws1/

(注5)奥村氏が紹介しているノルウェーのファクトチェックの組織は「FAKTISK(ファクティスク)


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