イギリスでは3月、文化・メディア・スポーツ省が「The Local Media Action Plan<地域メディア行動計画>」を公表しました。日本の地域メディア政策にも参考になる考え方が多く示されていたので、イギリスの地域メディア事情、行動計画をまとめる経緯も含めて書いてみました。
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4949

「はじめに」では、日本の地域メディアを研究する私の立ち位置も述べています。下記に抜粋しておきます。
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東京財団「人口減少社会における地域メディアの機能のあり方[1]」研究プロジェクトでは、現在、イギリス、フランス、ドイツ、韓国を中心に、海外の地域メディア施策の最新動向について調査中である。各国の施策を理解し、国内にどのように応用できるのか検討することを目的としている。
いずれの国においても、伝統メディアである新聞・放送業界が抱える課題は共通している。デジタルプラットフォームや大手配信サービスなどの市場支配力の拡大、メディア接触の多様化によるユーザー離れ、新聞・放送業界自身のデジタル化への対応の遅れによる競争力の低下、そして、特に拠点が都市部でない場合には、人口減少による経営環境の悪化も加わる。以上の“四重苦”に直面し、既存の地域メディアは、廃業に追い込まれたり、厳しい経営状況に直面したりしている。それに伴って、地域住民が信頼できる情報、特に、政治や行政情報などにアクセスできない状態に陥る、“地域情報の空白地”が増えている。その現象を表す「ニュース砂漠」という言葉も、世界的に使われるようになっている[2]。
一方で、インターネット(以下、ネット)上には、スタートアップ企業や個人などによる新興の地域メディアや地域サイトも次々と登場している。これまでのように国による免許や大きな組織は必要でなくなり、誰でも身軽に手軽にメディアを始められるようになったためだ。その中には、デジタルテクノロジーを活用した新たな報道のかたちや、合意形成のためのコミュニティ作りを目指すものもある。一方で、取材機能を有していなかったり、倫理規定や綱領が不在だったりと、扱う情報の真正性やコンテンツの権利の取り扱いなどに懸念があるものもある。生成AIの活用で、地域メディアや地域サイトを巧妙に装うものも出現している。
伝統メディアの弱体化、中でも地域ジャーナリズムの空洞化(ニュース砂漠化)によって確かな情報が流通する仕組みが崩壊し、偽・誤情報の増加、対立や分断の深まり、地域の自治力の低下が起きているのではないか。冒頭に記載した国々では、政府や行政がこうした強い危機意識を抱いて、何らかの地域メディア施策が実行されている。もちろん、政府や行政から直接的な支援を受けることによって報道内容や編集権に影響が及ぶおそれがあるのではないか、支援の対象は伝統メディアのみでいいのか、支援の要件をどのように設定するのか、などの議論はある。
国内はどうか。既存の地域メディアが置かれている状況は、海外と同様、“四重苦”の只中にある。総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会[3]」では、「放送の価値は、情報空間全体におけるインフォメーション・ヘルスの確保の点で、むしろこのデジタル時代においてこそ、その役割に対する期待が増している[4]」との問題意識で、地上テレビ局が取り組む配信サービスをネット上(コネクテッドテレビ上)に優先表示(プロミネンス)させる方法が検討されたり、地域メディアである民放ローカル局のインフラ維持に受信料財源を活用するなどの経営基盤の強化施策が打ち出されたりしてきた。また、2026年4月23日には、官民連携による実写コンテンツの製作力強化と海外展開の促進のための「実写コンテンツ展開力強化アクションプラン[5]」が打ち出され、地域コンテンツ製作力・発信力の強化が柱の1つとなっている。NHK受信料の還元目的積立金100億円を活用した基金も作られる予定だ。
ただ、日本は欧州のように、メディア全体のあり方を包括的に検討する官庁が不在である。総務省の検討会は、放送とそれに関連する領域の議論にとどまっており、地域メディア施策も俯瞰的な視点では検討されていない。また、世界の主要国では、政治的中立の確保や競争上の公平性の観点から、通信・放送分野の規制を独立規制監督機関が担っているが、日本の場合は内閣の一員である総務大臣が担当・管理し、総務省が担っている。そうしたことも一因しているのだろうか、放送行政の議論の場では、以前から、放送内容、特にニュース・ジャーナリズムに関する論点や施策は、真正面から論じにくい雰囲気がある[6]。
以上のように、海外と日本では、メディアを巡る制度も議論の進め方も異なる点が多い。そのため、海外の施策をそのまま輸入しようとしても、どうしても無理が生じてしまう。とはいえ、俯瞰的な地域メディアに関する議論や、ニュース・ジャーナリズム機能を維持するための議論は国内ではできないと諦めてしまうのも早計である。海外の優れた施策やそこにつながる学ぶべき議論を、日本にあった方法で、実効性を持つ形でどう生かしていけるかが問われているのである。
海外の地域メディア施策はめまぐるしく動いている。そのため、Reviewでは随時、各国の最新動向を報告していきたい。本稿では、2026年3月17日にイギリスの文化・メディア・スポーツ省(以下、DCMS)が公表した、「The Local Media Action Plan<地域メディア行動計画>(以下、行動計画)[7]」を取り上げる。地域メディアのデジタル・イノベーションやコミュニティラジオ、「ニュース砂漠」の対応に最大1,200万ポンド(日本円で26億円弱)の資金を支援するというこの計画を、DCMSは“一世代ぶり(20~30年ぶり)[8]”の地域メディア施策だと謳っている。どのような内容なのだろうか。イギリスのこれまでの地域メディア施策も振り返りながら紹介していく。
