NHK新ネットサービス「NHK ONE」開始に思うこと(9月30日記)


 10月1日から、NHKのネット必須業務化に伴う新サービス、「NHK ONE」が開始する(https://www.nhk.or.jp/nhkone/)。それに伴い、9月30日、NHKは様々なサイトを閉鎖した。

<図表> 9月30日で終了するサイト(一部)


 NHK ONEは、基本的に受信契約者向けのサービスである。つまり、NHKのネット活用業務の必須業務化は、テレビを持たない、NHKと契約しない人にNHKはリーチをしない、という判断である。このことは、NHKはデジタル時代のユニバーサルサービスから逆行したということだと私は捉えている。また、双方向コミュニケーションを前提としたネット空間において取り組んできた、視聴者と共に課題解決を図る内容などの様々なサービスの廃止・縮小は、NHKの公共メディアへの模索を後退させることにもつながったと感じている。
 確かに、新聞協会などが指摘するように、メディアの多元性と公正な競争の確保は重要なテーマである。私は、かつてNHKのネット業務が任意業務だった時、「理解増進情報」という名のもとで、ネット上でオリジナルに近いコンテンツを発信することについては懐疑的であったし、そのことは何度も指摘してきた。一方で、ビジネスベースの民間メディアにはできず、NHKにしかできないネットサービスとは何か、とか、デジタル情報空間における公共性のあるべき姿とは何かなどの問いについては、放送との“紐づけ”、放送と“同等の価値”というロジックだけでなく、もっとNHK内部でも、総務省の検討会でも、サービスの現場の実態を踏まえた、多様で深い視点の議論が必要だったと思う。
 しかし、こうした、NHKがネットでどこまで公共的役割を果たすことが求められているのか、という議論を真正面からするということは、もはや放送法の枠に収まらない議論になることも容易に想像できる。だからこそ、この議論は拙速に結論を出すべきではなかった。既存サービスを縮小させてまで、なぜ今、制度改正を急ぐ必要があったのか。今回の制度改正では、ネットのみの視聴であっても、ユーザーの意思表示の上で受信料徴収の対象となることが決まったが、どれほどの人が意思表示をしてくれるのか。受信料制度の議論は、国民・視聴者にとって、更に難解なものとなってしまった。
 イギリスBBCのように、NHKがハード・ソフトの分離を前提に、コンテンツ・サービスに特化する公共サービスメディアを志向するというのならば理解できる。ただし、NHKはそうした将来ビジョンを示しているわけでもない。NHKはどこに向かおうとしているのか。
 NHK放送文化研究所で総務省での議論の過程をウオッチし、問題提起をする立場にあった身としては、無力だった自分を顧み、忸怩たる思いで10月1日を迎える。同時に、10月1日を見届けずに早期退職をした身として、NHKの中で様々な思いを抱えながらも前向きに頑張っている同僚たちに思いをはせ、NHK に残っていれば同じ戦線に立っていたであろうことを考えると、その選択をしなかったことへの後ろめたさもある。だからこそ、無責任な批判は避けたい。建設的な提言を行っていきたい。
 国民・視聴者不在の難解な制度議論から、国民・視聴者中心の平易で開かれた議論へ。今後、メディア研究者として、必須業務化以前のNHKのネットサービスの検証を行うと共に、必須業務化後の受信料契約を前提とする新サービスが、視聴者・国民にどのように受け止められるのか、冷静に観察していきたい。9月30日記はひとまずここまで。