放送批評懇談会が発行する月刊誌「GALAC」3月号では「ネット配信変革期」という特集が組まれ、7つのインタビュー記事もしくは論考が掲載されている。私は編集部から、⑦の「ネット配信と地上波の共存ははたして可能なのか」という、非常に重要ではありますが、幅広く、難しいお題をいただき、悩みながら執筆した。
①デジタル社会における公共放送の役割/宍戸常寿
②10周年を迎えたTVerのこれから/大場洋士
③名古屋発・5社連合の配信サービス/田島 誠
④新しい視聴体験「FAST」日本版/福崎伸也
⑤ラジオ局の配信プラットフォーム/茅原良平
⑥テレビ広告のデジタル進化/境 治
⑦ネット配信と地上波の共存ははたして可能なのか/村上圭子
内容としては、「放送100年目の配信サービスへの筆者の認識」と題し、NHKONE、TVer、radikoの現在地を整理した後、「NHKと民放の二元体制」、「伝送路の今後とプロミネンス」、「デジタル情報空間と“公共メディア”」について論じた。③についてはNHKのネット活用業務の必須業務化について論じた。以下、その部分について掲載しておく。
筆者は、NHKが任意業務の際に行っていたネットサービスの全てを肯定しているわけではない。日本新聞協会が指摘する民間と競合するようなものや、民放連が指摘するオリジナルコンテンツに近いものも存在した。ただ、批判はあったものの、約10年間、NHKはデジタル情報空間の中における“公共メディア”の役割とは何かを模索してきたことは事実である。
番組の送り手と受け手という関係性から対等なパートナーとしてつながり、コミュニティを運営することで、メディアが果たすべき役割を再発見した経験。ブログでもYouTubeでも個人で発信ができる時代で、組織メディアにおける個人の発信のあり方はどうあるべきなのかの試行錯誤。取材や制作のプロセスを開示することで、新たなコンテンツの可能性やメディアの信頼を得るコミュニケーションを探る挑戦。多くの人に向けて放送するだけではこぼれ落ちてしまう課題や人々に向き合い、民主主義を下支えする新たなコンテンツの制作。
これらは受信料を活用し、ユーザーも巻き込んで行われた壮大な社会実験であった。必須業務化後も、残すべきもの、残せるものを細かく検証するのは、NHKの社会に対する責任であったと思う。また、新聞協会や民放連に対しても、NHKが手探りで見つけた“公共メディアの萌芽”を共有し、マスメディア全体でそれを育む建設的な議論ができなかったか、と思うと残念である。今後、筆者の研究として示していきたい。
現在のNHK番組関連情報の配信業務規程には、「放送と同一の価値を届けてインターネットの視聴習慣特性に対応して届け方を工夫する」と記載されている。NHKには、単なる“届け方の工夫”ではなく、デジタル情報空間における“役割の再定義”を期待したい。そのことが、コンテンツ、サービスの領域における、配信と地上波の真の共存のあり方だと考えている。

